今回はタスク管理用語「計画錯誤」について説明します!
計画錯誤とは
「計画錯誤(Planning Fallacy)」とは、「作業(タスク)にかかる時間を、実際よりも短く見積もり過ぎる傾向」のことを言います。
「プランニングの誤謬」とも呼ばれます。
1979年に、行動経済学者であるDaniel KahnemanとAmos Tverskyによって提唱され、現在までに多くの学者による研究結果が残っています。
37人の学生に対し、卒業論文の執筆に何日間かかるかという質問をした。
「すべてがうまくいった場合」の見積もりは、平均で27・4日間。
「何もかもうまくいかなかった場合」の見積もりは、平均で48・6日間だった。
ところが実際、執筆にかかった平均時間は55・5日間と、最悪の場合の見積もりを超えていた[1][2]。
基本的に私たちは、作業時間を見積もろうとすると、ギリギリか、かなり短く見積もる傾向にあります。
それは、過去に「計画通りにならなかった経験」を抱えていても起こるとされます。
自分で見積もりが甘すぎる傾向があることは分かっていても、いざ目の前のタスクを見積もろうとすると、甘すぎる見積もりをしてしまうのです[3]。
また、経験や直感だけで見積もりを行うと、より過少評価を生み出しやすいとされます[4]。
この現象は、個人の性格に左右されない現象であることも確認されています[5]。
計画錯誤の要因
計画錯誤の要因は研究者によって立場が異なり、十分な解明はされていません。
その中でも代表的な要因を幾つか挙げてみます。
楽観バイアス[2][6]
バイアスとは、思考の偏りや思い込みを意味する言葉です。
そもそも人は楽観的であり、作業にかかる時間も楽観的に予測するため、計画の錯誤が起こるという考え方です。
楽観バイアスを減らせば、計画錯誤が低減されるかは研究段階にあり、諸説あります。
過去の記憶の無視[2][7]
人は、過去のタスクの記憶を無視して予測するという考え方です。
以前同じようなタスクで時間が掛かっていても、「今回は何とかなるだろう」と過去の記憶を無視することで予測がズレていきます。
過去の類似タスクの記憶を意識的に思い出させることで、計画錯誤が低減した実験もあります。[2]
記憶バイアス[8]
過去のタスクの所要時間の記憶が誤っていて、誤った記憶を元に所要時間を予測するという考え方です。
記憶はどんどん蓄積され、上書きされていくため、過去に類似タスクに時間が掛かっていたとしても、次に見積もりを行う状況では誤った情報で記憶している場合があります。
こちらも研究段階にあり、検証が続けられています。
アンパック不足[9][10]
作業を十分に要素分解(アンパック)できていないため、所要時間を正確に予測できないという考え方です。
必要な作業や所要時間が曖昧なままタスクの見積もりを行うことで、予測にズレが生じていきます。
メカニズムを検証した研究はいくつかあり、アンパックすることで計画錯誤を低減できることが示されています[11]。
計画錯誤の低減方法
計画錯誤の低減方法については、幾つか研究によって検証されているものがあります。
アンパッキング[11]
タスクを必要なステップに分解(アンパック、ブレイクダウン)する方法です。
タスクの作業手順を書き出し、一つ一つ所要時間を見積もることで、より正確な見積もりができるようになります。
参照クラス予測法[12]
自分の記憶や経験だけでなく、記録や他者の経験など、入手可能な過去の情報を活用する方法です。
個人のタスクで言えば、実際に計測した結果を元に見積もりを立てることで、正確な見積もりが可能になります。
タスクシュート式では、作業記録を元に、この方法で見積もりを行っていきます。
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時間帯の考慮[13]
見積もりをする時間帯によって、予測とのズレが生じたり、正確な予測ができたりします。
特に、「朝」に見積もりをした方が、見積もりの精度が高まるとされています。
バッファを取る[1]
自分が見積もった時間を、つねに1.5倍など多めに増やして締切を設定する方法です。
「予測はズレるものだ」という前提に立って、見積もった時間よりも多めに、作業時間を設定していきます。
計画錯誤自体が軽減されるというよりも、実務の中で作業に遅れを出さないために有効な考え方になります。
また、作業に対する時間的余裕のことを「バッファ」と言います。
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参考文献
引用
[1] エッセンシャル思考
[2]~[13] 論文の引用
- [2] Buehler, Griffin (1994)
- [3] Buehler, Griffin (2002)
- [4] Kahneman, Tversky (1977)
- [5] Buehler, Griffin (2003)
- [6] Kahneman, Lovallo (1993)
- [7] Kahneman, Tversky(1979)
- [8] Roy et al.(2005)
- [9] Kruger, Evans (2004)
- [10] Wilson et al.(2000)
- [11] Sanna, Schwarz (2004)
- [12] Flyvbjerg(2008)
- [13] Blatter, Cajochen(2007)